営功社

提案フェーズの失敗|資料は見せたのに伝わらない構造的欠陥

2025.10.10

育成・研修

営業の商談において、多くの人が自信を持つのが「提案資料」です。
見やすく整ったパワーポイント、分かりやすい図解、丁寧に作り込まれた価格表。

しかし、営功社の50万件の営業音声を分析して気づいたのは、資料を見せているのに顧客の心には届いていない場面が驚くほど多いという事実でした。

営業マン:「こちらがサービスの概要です。次に料金プランですが…」
顧客:「……(沈黙)」
その後に出てくる言葉は、「よく分かりませんでした」「検討します」。
資料は確かに提示されている。けれど顧客は“理解した“のではなく、“聞き流した“。
この失敗の原因は、資料の質よりも、資料の見せ方と構造の欠陥にあります。

失敗パターンの典型

営功社の50万件の音声データを追うと、提案フェーズの失敗にはいくつかの共通点が浮かび上がります。

説明が資料依存になっている

営業がスライドを読み上げるだけで、顧客が「自分ごと」として考える余地がない。

顧客の課題と結び付いていない

「この機能は便利です」「この価格は業界最安です」と、スペックや値段だけに終始する。

順序が顧客視点とズレている

顧客が知りたいのは「なぜ自分たちに必要か」なのに、営業は「自社紹介→機能一覧→価格」の順で話してしまう。

資料自体の完成度が高くても、顧客の理解フレームに合っていない限りは伝わらないのです。

「伝わらない構造」とは何か

提案が伝わらない理由の核心は、顧客の頭の中にあるストーリーと、営業側が示すストーリーがズレていることです。
顧客は無意識にこんな流れを求めています。

  • 現状の確認「今の自分たちの課題は何か」
  • 未来像の提示「それが解決したらどうなるか」
  • 手段の明示「どうやって解決できるのか」
  • 根拠の保証「本当に信頼できるのか」

ところが失敗する営業は、

  1. 1.自社紹介から始める
  2. 2.製品機能を網羅的に説明する
  3. 3.価格を最後に提示する

という流れを踏んでしまい、顧客は「それで自分たちにどう役立つの?」とモヤモヤを抱えたまま商談が終わるのです。

相性とズレの視点

提案フェーズにも「相性」と「ズレ」が存在します。

顧客タイプ特徴効果的な話し方・構造
論理型データや根拠を重視。筋道立った説明を好む。事例・データ → 根拠 → 結論 の順に論理的に構成する。グラフや数値を多用。
直感型全体像・未来像を重視。感覚的に理解する。全体像・ビジョン → メリット → 詳細 の流れで話す。将来像やストーリーを提示してから具体化。
慎重型リスクや比較検討を重視。安心感を求める。他社比較 → リスク説明 → 安全策・事例 の順で説明。安心感を与えつつ選択肢を明示。
  • 論理型の顧客には、データや事例を重視した構造で話す必要がある。
  • 直感型の顧客には、まず全体像や未来像を提示してから細部を説明する方が響く。
  • 慎重型の顧客には、他社比較やリスク説明を最初に与えることで安心感を高められる。

顧客タイプと資料構成の相性が合わないと、提案は「情報の洪水」か「空虚なプレゼン」になってしまいます。

実践ポイント

提案を「伝わる構造」にするための具体策を整理します。
資料を読むのではなく“対話のきっかけ“にする
「このスライドの内容について、御社ではどう感じられますか?」と問いを添える。

  • 課題→未来→手段→根拠の順に構成する
  • 顧客の頭の中のストーリーに合わせて話すことで、“自分ごと“に変わる。
  • 1枚1テーマで区切る
  • 「この1枚は課題確認」「この1枚は解決の未来像」と目的を絞り、議論の焦点を明確にする。
  • 顧客の言葉を反映する
  • 事前ヒアリングや会話中に出た顧客の表現を資料に書き込みながら説明することで、共感が生まれる。


まとめ

提案フェーズの失敗は、資料のデザインや完成度の問題ではありません。
本質は、顧客の頭の中にある理解の流れと、営業側が提示する流れのズレにあります。
営功社の50万件の中にある失敗音声から分かるのは、「資料を見せる」ことと「伝わる」ことはまったく別物だということ。
大切なのは、資料を単なる説明ツールにせず、顧客と未来を共有する“対話の道具“に変えることです。
あなたが次に商談で資料を開くとき、それは「読み上げ用の紙」でしょうか?
それとも「相手の物語を引き出すための扉」でしょうか?

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